小説『117+』(仮)第十話 「2005年1月16日 ―赤羽緋美子―」

あまりにも突拍子もない出来事には、もう無視しかない。



アオバが言うには、
あの目つきの悪い大学生は、私の名前を知っていて、
しかも私に興味があるらしい。
「ひょっとしたら米村先輩、ヒミコのこと狙ってるんじゃ」
アオバが呟くので、私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「いやいやいやいや! じゃあなんで吹奏楽部に近づいたの。そんな回りくどい」
「OBだし。吹奏楽部員のあたしとヒミコが仲良さそうなところ見て、
あたしをダシに近づこうとしたんだ。絶対そうだ」
「じゃあさ、もっとあたしにやさしい目をしてくれたっていいじゃん!」



その言葉にアオバの顔が一瞬キョトンとなる。
「アオバをつけて、ファミレス入ったときだけどさ、トイレであの大学生とすれ違ったのよ。
でもやっぱ厳しい顔してたよ。何か怖かった」
「あたしたちといた時も怖かったもん。機嫌が悪かったんだよ」
「いや、もっと怖い顔してた。なんていうか、親の仇みたいな感じでこっちを見てたの。
あたし狙ってるなら、もっとあたしの機嫌取りなさいよって感じ」
「…っていうことは?」
「たぶん、あたしに恨みがあるんだよ。何かあたし、知らないとこで大学生の恨みを買っちゃったのよ」



アオバは大きなため息をひとつついた。
「そんなの、何の根拠もないじゃない。ばかばかしい」
「それを言うなら、あの人があたしを好きだってのも、何の根拠もないでしょ!」



結局のところ、二人で話をしていても何の解決にもならなかった。
もちろん、そこにリュウタが入ってきても同じだった。
リュウタは「3Pがしたいんじゃね?」などと意味不明な言葉を吐いたので、一撃加えておいた。



わからないことは無視。
それよりも、アオバと大学生をくっつけることを考えなくちゃ。
そのためにも、一度大学生とは会っておく必要があるかもしれない。
ちょうどアオバも、今度私を会わせると大学生に約束したらしい。
彼が私の何を知っているのか、その時に聞いてみようと思う。



帰りの時間。
アオバは今日も吹奏楽部の練習があったので、
一人で帰ろうと校門を出ようとした際に、
担任の花沢先生に呼びとめられた。



吹奏楽部に来ているOBってのは、今日も来るのかな?」
私は、そのOBがどのくらいの頻度で来るのか分からないので、
素直にそう答えた。
花沢先生に別段の反応はなかった。
「いや、OBってのは一応部外者だからな。
何か校内で問題を起こされても困るから、話を聞いた以上は把握しておきたいなと思ってな」



確かにあやしい男かもしれない。




本当に追跡すべきは、
アオバじゃなくて、あの大学生だ。





(この小説はフィクションです
実際の人物、団体、地名などとは一切関係ありません)