小説『117+』(仮)第九話 「2005年1月15日 ―赤羽緋美子―」

なんという浅はかさ。
なんという愚かしい行為。
私のばか。



わからないけど、見た感じ賢そうな人だった。
あのやり取りで、何かを察するなという方に無理がある。
「アオバ全然関係ないですから!」
自分の台詞を思い出すたびに、心臓と胃が痛くなる。


「お前、本当にばかなんだな」
リュウタに昨日の出来事を話すと、私が思っている通りの憎まれ口を返してきた。
でも今はいい。今は慰められても空しいだけだ。
今日は自分を責め立てたい気分。


「いや、ヒミコは関係ないよ」
事情を大概飲み込んだ(飲み込んでしまったのだ。リュウタの口の軽さによって)アオバは
実に暗い表情で私を慰めてくれた。
「だって、もう関係ないもん」
「いや、そんなこと…」
「あの人、やっぱりあたしたちに全然興味ないもん。昨日も全然楽しくなさそうだったしさ」


不意に私に、二択の選択肢が舞い降りてきた。
A「そんなことないよ! アオバががんばればあの人もきっと振り向いてくれるよ!」
B「それでよかったよアオバ。だってあの人正直危なそうだったもん」



一瞬考えたのち、フィーリングでBを選んだ。
「それでよかったよアオバ。だってあの人正直危なそうだったもん。
目つきだって怖かったし。アオバ、付き合ってたら一週間で南アジアのどこかに
連れていかれちゃうって。間違いないって」
アオバはそれを聞いて、急に涙をこぼし始めた。
「そんなこと言ったって、好きだったんだもん」
「よしよし、もう泣くな」
普段は気になってしょうがないはずの服のしわにもかまわず、私に飛びついて延々と泣いている。


こういう一面も見せるから、アオバは素敵だ。
そんな様子を、リュウタは鼻で笑うので
私はすかさずリュウタの腹を蹴った。




「あ、そういえば」
アオバは急に泣きやむと、私に問いかけてきた。
「ヒミコ、あんた、先輩と知り合い?」
「別に…」
アオバの急で唐突な質問に私は一瞬硬直する。
「そっか」
「何で?」


アオバは口をとがらせてつぶやいた。
「先輩、妙にあんたのことに興味があったようだからさ」





(この文章はフィクションです。
実際に出てくる人物、団体、地名などとは一切関係ありません)