小説『117+』(仮)第一話 「2005年1月9日 ―赤羽緋美子―」

別にゲームがそんなに好きなわけじゃなかった。


所持ハードはファミコンとPS2とDS。PS2の方はそんなにやってない。
DSはメイドインワリオを買ってみた。結構楽しかった。でもそんだけ。



そんな感じのにわかゲームライフ。

でも、周囲からはゲームマニアで通っていた。
私もそれは否定しなかった。



ファミコンソフト所持本数が1000本を超えたからだ。



これも、別にレトロゲームが好きなわけじゃない。




私が物心つく頃には、ソフトという言葉は
要するにあの円盤を指すものだった。
私もそのことに関して特に疑問を持たなかった。

おそらくあと10年先に生まれる子供たちにとっては
ソフトという言葉は、形のない、データそのものを意味するようになるだろうがそれは別のお話。

とにかく、そんな先入観で育った私の目の前に
ファミコンソフトは不意に姿を現したのだ。
正確には不意に、じゃなくてお隣のあんちゃんの部屋でだ。

真四角の、お菓子でも詰まっていそうな箱の中に入った
カラフルなカードリッジ。

私の心は一瞬で虜になった。

私が生まれる前のゲームソフトって、これだったんだ。



あれを知ってしまうと、もうCDだのDVDだの、何Dだが知らないが
あの円盤が貧相に見えてしょうがない。
円盤はカードリッジに比べ何百倍ものデータが入るようだが
私には口ばかり達者でひ弱な人間にしか見えなかった。

その点でいえばスーパーファミコンメガドライブはまだましだ。
しかしこいつらはつまらなすぎる。
どれを買っても同じ色、形で統一されているのだ。
どんな話をしても無表情な軍人さんみたい。

ファミコンは違った。
赤、青、オレンジ、黒、紫…。
ギザギザがついてたり、ノッポだったり、発光ダイオードがついてたり。
箱だっていろんな形のがあった。

私はいつしか、小さなゲームショップに通い詰めるようになった。

本当はもっと欲しいものだっていっぱいあったはずなのに。

学校では禁止されてるバイトを二つも兼ねて、お金をためては
ゲームショップに寄って。
お昼ご飯代に渡された500円玉をそのまま貯金箱に突っ込んでは
ゲームショップに寄って。
棚に並んでるのを眺めるだけのつもりだったのに
気がつけばレジに並んじゃって。

なんだかんだで1000本。
まるでカラフルな壁紙が貼られてるみたいな私の部屋。
二年前よりも確実に狭くなっている。



今日、
そんな私の目の前に一本のファミコンソフトが置かれている。
私は部屋の真中にそれを置き、正座してそれを眺めている。

デザインは黒。ファミコン後期のソフトは黒が多い気がする。
ラベルは汚く剥がされて判別不可能。これも譲り受けたソフトにはよくあること。

そんな、今まで何度も見たであろうソフトを目の前に、
私は今、怖気づいている。





(この文章はフィクションです
実際に出てくる人名、団体などとは一切関係がありません)