小説『117+』(仮) プロローグ 「1988年某月某日」

ファミコン黄金時代と呼ばれていたのは1985年。

スーパーマリオブラザース」の大ヒットによって、本体台数は飛躍的に上昇。
「出せば売れる」とまで言われるほどにソフトの需要も増大し、ブームは社会的現象となり
ファミコンという言葉がゲームの代名詞として定着するほどにまで一般化した。

そしてそのファミコンブームは同時に、新たな商売を生み出した。
「攻略本」という新たなジャンルの書籍。「ファミコンソフトの中古販売」などがそうだ。
特にファミコンソフトの中古販売は今も昔もメーカーの悩みの種の一つとなっており、
メーカーとしては、「いかにゲームを売却させないか」という課題は20年前から常に抱えている
ゲーム製作における命題でもあったのだ。

ソニープレイステーションが発売されるころ、CD−ROMによるソフト供給が一般的になる頃ならば、
その命題に対する一つの答えが、「ボリュームアップ」だった。
要するに、時間のかかる複数の目的(いわゆるやり込み要素)を設定することで、
プレイ時間を長引かせ、中古屋に処分してもらうタイミングを減らすというわけだ。

しかし、ゲームとして表現したい最低限の内容を入れることしかできなかった
カートリッジの時代では?
やり込み要素なんか最初から入れることができないほどに容量と戦っていた時代はどうしていたか?

ゲーム全体の難度を高める

当時はこれが一般的な対処法出会った。

みな、ゲームを夢中になってプレイしている。
簡単にクリアーされてしまってはすぐに売却されてしまう。
ならば、簡単にはクリアーできなくしてしまえばいい。

まさに、出せば売れる黄金時代ならではの対処法である。

その対処法がピークだったのが、1988年。
実際にこのころのゲームは、他の時代のゲームと比べて
ほとんどのものがワンランク上の難度を誇っていると言っても過言ではない。
85年のころからひたすらゲームと付き合っている人間が、それでも簡単にはクリアーできないようなゲーム設計。
1988年を超えると、メーカー側に新規客を取り込む重要性の理解が広まったのか、ゲームの難度は再び落着きを始めるが、
この1988年は、まさに黄金時代終焉間近、膨大なゲーマーの悲鳴がこだまする阿鼻叫喚の時代だったわけだ。



そんな1988年、1本のソフトが世に出た。

『The Dark2005』

発売元は『世界ボランティア株式会社』
ジャンルはロールプレイングゲーム



おそらくこのタイトルは、
かなりコアなゲームマニアであっても、聞きなじみのないタイトルに違いない。
何せこのゲーム、ファミコンを作った任天堂から認可が下りたソフトではない。
非公認のソフトなのである。





(この文章はすべてフィクションです。
実際に存在する人物、団体、地名などとは一切関係がありません)